― 京の暮らしと、白菜ぬか漬 ―
京の町家の台所。
片隅に、ぬか床。
火を落としたあと、
手を入れ、かき混ぜ、預ける。
味は、人がつくるのではない。
時と発酵が、静かに整えていく。
出汁をひき、味噌を溶き、
火を落としたあと ぬか床に触れる。
それは 身についた所作。
白菜を伏せると、
葉と葉のあいだに 時間が入る。
味の角は、 やがて丸くなる。
深い日もある。 浅い日もある。
漬かりを、 そのまま受け取る。
それが、京の加減。
味噌や醤油が 公の発酵なら、
ぬか漬は 私の発酵。
家ごとに違い、 昨日が今日に重なる。
桶は語らない。 ただ、覚えている。
野菜は季節を連れてきて、
ぬか床は時間を与える。
ぬか漬は、 日本の台所に残った
最後の発酵文化。
その一片に、 暮らしがにじむ。
器に置かれた白菜で、
朝は、静かな酸で整う。