― 建礼門院と、しば漬 ―
その名を聞くだけで、
しば漬は、遠い時代の気配をまといます。
建礼門院。
平家の栄華とともにあり、
そしてすべてを失い、
静けさの中に生きたひと。
大原は寂光院。
沈んだ我が子と一門の菩提を
弔いながら過ごされた日々。
その折、里人が差し出した
瓜、茄子、茗荷を赤紫蘇で漬けたもの。
「紫葉漬か」
そう口にされた――と伝わります。
私どもは、
この物語を由来ではなく、気配として受け取っています。
決して強くはなく、
ゆっくりと立ちのぼる、やわらかな酸味。
塩と野菜と、時間。
発酵は、人が急がせるものではありません。
桶の中で、見えないものが整っていくのを待つ。
整いすぎないこと。
それが、私どもの美意識です。
赤紫蘇の色は、語らない。
味もまた、語らない。
それが、京のかたちです。
主人